new pecの歩み

航海用電子参考図「newpec」が初めて発行されたのは、2009年7月のことになります。
まず最初に「東京湾及び周辺」をリリースした後、順次、対応エリアを拡大していき、2011年11月の「北海道及び本州北岸」の発表を持って、離島を含む全国すべての海域を網羅することになりました。
当初はPC(windows)上で運用するデジタルチャートとしてデビューした「new pec」ですが、現在では国内舶用機器メーカーの製品のマップデータに導入されているほか、2018年3月にはモバイル用アプリにも登場します。PC、舶用機器、スマートフォン&タブレットと、目的に合わせて幅広い選択肢が生まれるようになり、プレジャーボートから内航船まで、さまざまなユーザーに利用される製品となりました。

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ニューペックの歩みイメージ画像1

私は当協会に転籍しましたが、以前に海上保安庁で塩釜(現宮城)海上保安部長を務めたことがありました。
海上保安部では、事故などが起きた際、巡視船に乗って現場まで向かうことになります。管轄する三陸地方一帯は、複雑に入り組んだリアス式の海岸線が有名で、沿岸部には、見えない岩礁や浅瀬なども数多くあるところです。そんなエリアを巡視船で航行するわけですが、縮尺の小さい海図や沿岸詳細図がないというような場所も少なくありませんでした。そのようなときには、航空写真を見て、海面の色の違いから水深を見極めるなどして、慎重に進んでいったものです。
これまでに、実際にそんな場面を多く経験してきたこともあり、大型船向けに作られた海図ではカバーされていない、いわば小型船にとって一番知りたい情報が載っている海図が必要だと強く感じていました。
そこで、当協会に着任するとほどなく、全国の沿岸全てを1/25,000以上、拡大すれば1/5,000の実用的な電子海図を開発しようと決心した次第です。ちょうどそのころは、「紙からデジタルへ」と、ナビゲーションの基本が移りゆく過渡期にあったと思います。

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ニューペックの歩みイメージ画像2

当協会独自で、全ての海図の電子化プロジェクトを立ち上げることを決断。当協会で開発予算を用意し、決められたある一定の年月が経った後には、その開発費を回収するという事業計画を立てスタートしました。手始めに、紙海図情報の電子データ化に取り組みました。海図作りのエキスパートの方々を何人も協会にスカウトするなどしましたが、実際には紙海図もない水域がかなりあって、作業には3年という月日を要しました。
また、当協会では、測量せずにデータを集めていきます。海岸線は国土地理院のデータがあったものの、沿岸部の岩礁や小さな港湾といった場所については、正しい情報を得るのに大変苦労しました。そのような場所については、航空写真を利用したほか、全国の港湾事務所や自治体から港についての図面の提供を依頼しました。
一方、小型船向けのさまざまな水路参考図誌を発行する当協会には、以前から「定置網など漁具の情報が欲しい」という声が届いていました。 実際、小型船の事故の統計を見てみると、最も多いのが浅瀬や漁具への乗り上げ事故だという現実があります。全国各地の自治体や漁業関係者から情報を集めるのは大変な作業でしたが、安全航行に役立つツールにするために、こういった情報を掲載することにはこだわりました。

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こうして完成した「new pec」ですが、これで製品開発が終わりというわけではありません。掲載されている情報、例えば港湾や海岸線が工事などで変わったり、定置網が新たに設置されたりというようなことは、常々起こりうることです。したがって、データの改補や修正を維持し続けるということが大切であり、正確で最新の内容を保つために、現在も専属のスタッフが日々業務に取り組んでいます。また、ユーザーから寄せられる声を参考に、使い勝手や機能の面も、随時手を加えています。
2016年には、長らく発行されてきた『Sガイド』の冊子版の販売が終了し、電子版への移行がなされました。このような例を挙げるまでもなく、「紙からデジタルへ」と、時代は移り変わっています。 より多くの皆さまの安全航行を支えるために、「newpec」が広く活用されることを望んでやみません。


(一財)日本水路協会 元理事長(現 顧問)/陶 正史