「new pec」は、(一財)日本水路協会が制作・発行する航海用電子参考図。PC版からスタートし、現在ではライセンス供与により、多くのメーカーの幅広い種類の機器やアプリを通じて、より多くの付加価値とともに利用されるなど、ナビゲーションのスタンダードとしての地位を確立した。
発行元の日本水路協会は、海図の複製・頒布、Yチャート(ヨット・モータボート用参考図)やSガイド(プレジャーボート・小型船用港湾案内)といった水路参考図誌の刊行、さらには海洋調査研究・情報提供、海洋調査技術者の養成・検定など、海洋に関わるさまざまな業務を手がけている。
そんな中にあって、2018年1月現在、電子出版部の4人のメンバーがnew pecに関する業務に携わっている。安全で安心の航海を実現するために、ニューペックのデータは、常に最新かつ正しい情報が掲載されていることが必須。
電子出版部部長の若松昭平さんに、new pecに関わるあれこれを伺った。
(一財)日本水路協会は、羽田空港ビル6階(空港モノレール整備場駅から徒歩1分)に拠点を構えている
情報のアップデートが魅力
new pec(PC版の場合)の最大の特徴の一つが、購入後も最新の情報へのアップデートを随時行うことができる点にある。
new pecは、日本全国の海岸線や水深(等深線)、港湾情報などを網羅しているが、そこに掲載されている地形は、工事などによって変化していることもある。
最新の情報が載っていない海図やデジタルチャートを使ってナビゲーションしていたら、ときには大きな事故につながりかねない可能性があるわけだ。
PC版のnew pecの場合、購入後、年4回(1月、4月、7月、10月)、最新のデータへのアップデートが可能。購入から1年間は無料、以後は「3年バージョンアップ」を購入することで、3年間継続して最新データを利用することができる。
週1回の水路通報のファイル。そこには、修正に関する細かな情報が、ぎっしりと書き込まれている
常に最新の情報を
new pecのアップデート作業を行っているのが、日本水路協会電子出版部のメンバー。
では、そのアップデート作業の元となる情報は、どこから得ているのだろうか。
「私たちの業務の中心は、new pecに収載されたデータにアップデートを行う作業です。
まずその第一のベースとなるのが、海上保安庁 海洋情報部が毎週発行する水路通報の情報です。ここには、海図に変更を加えなければならない箇所が記載されていたり、ときには補正図が添付されている箇所もありますが、この情報を更新する『改補』という作業を行っていくわけです。new pecの場合も、水路通報に記載された情報を反映させることが最優先になります」
水路通報は週1回発行されるが、日本全国の海岸線を網羅しているnew pecだけに、1回の修正箇所が数十箇所に及ぶこともザラ。しかも、この水路通報による変更情報は、あくまでも基本的なものにすぎず、それ以外のアップデート作業こそが業務の大半を占めると若松さんは話す。
「海図は基本的に大型船向けに作られたものなので、小型船に特化したnew pecでは、水路通報によるアップデートだけではカバーしきれません。そこで、港湾に関する工事情報などを、全国各地の自治体などから集めることは、欠かせない作業ですね。また、new pecを使っているユーザーから、例えば『ここに○○があった』『□□港の入り口に堤防ができたのに、new pecには載っていない』というような声を直接いただくことも多く、そういった生の情報を、その都度アップデートしてもいます」
トレースを連続する地道な作業
驚くことに、アップデートのための情報源は、ここまでに挙げたものだけにとどまらない。
そこでは、気の遠くなるような作業が、毎日毎日繰り返し行われている。
「外から得た情報だけで全国の海岸線の変化を知りうることは、実質上、不可能といってもいい。そこで、カバーできない場所に関しては、new pecのデータの上に地図や航空写真(いずれも国土地理院発行)を重ね合わせていく作業を、ひたすらやり続けるわけです。すると、例えば新しくできた防波堤が写真に写っていたり、港の形が変わっているというような場所が見つかる。日本全国をなめまわすように、1エリアずつ、ただひたすらチェックしていくのです」
new pecのアップデートは3カ月に1回。そのタイミングに合わせて最新の正しい情報をユーザーに届けられるよう、スタッフは業務に取り組んでいる。
new pecのデータを、陸上の地図(国土地理院発行)のデータと重ね合わせたところ。相違点がないかチェック
陸上の地図のみならず、航空写真(国土地理院発行)も活用し、new pecのデータを検証していく
安全と安心を届ける責任感
デジタルツールであるnew pecだが、アップデート作業の大半は人の手、人の目による作業に委ねられている。地味で気の遠くなるような作業が、データとしての高いクオリティーを支えている。
「new pecは、ユーザーの皆さんの安全航海に直結する製品です。ここが、陸上の地図とは絶対的に異なる部分だと言ってもいいでしょう。だからこそ、そこに間違った情報があってはならず、常に最新の正しい情報を掲載することが何より大切です。海外製品も含めて、さまざまなデジタルチャートがありますが、new pecは、日本の海を航海する上でナンバーワンの精度を誇る製品だと自負しています」